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52週を終えて、S・Yさん 体験談

ステップの加害者更生プログラムに1年間一度も休まず参加れたされたYさん、52週を振り返っての手記を頂きました。少し長文になりますが原文のままご紹介いたします。

 まず最初にステップへ来る前の頃のお話しをしたいと思います。
私たちの家族は2014年12月に別居を開始して、今でもそれが続いています。
原因は私の言葉によるDVと怒りが収まらなくなった時に起こる物への八つ当たりです。

 2009年に妻と結婚をし、結婚してから一番最初のDV行動は結婚式の日です。結婚披露宴が終わり、式場へ料金を払うのは妻の担当だったのですが、当日妻がお金を持ってくるのを忘れてしまい、それに対して私が腹を立て恫喝したことでした。その次の日、新婚旅行へと行きましたが、そこで妻の言動に優柔不断さを感じてしまい、楽しい旅行であるはずなのに私が何度か怒ってしまったのを覚えています。

 その後の結婚生活も私の一方的な言葉による暴力が続き、妻から何度か「あなたは言葉による暴力をしている」と言われましたが、そもそもたいてい問題があるのは妻にあるのだし私が怒るのは、妻への教育指導の一環、妻が変わるなら自分は嫌われても良いという、完全な相手の気持ちや人権を無視した言動でした。

 そのような日々が続き別居になったのは、先ほどお話しした2014年の12月です。その日は仕事を終えて帰宅すると、ちょうど妻と子も家に帰宅した時でした。
私は仕事上でのイライラ感を持ったまま帰宅しました。部屋に入ると、部屋が掃除していない事や洗濯物がいつまでも干しっぱなしだった事に目が行き、先ほどお話しした仕事でのイライラ感も助長して子どもがいる前で妻に対しかなり激しく激怒し、洗濯物を蹴り飛ばしてしまいました。
それでも怒りが収まらず、こんな妻とはこれ以上一緒にいたくないという気持ちから、自分から別居をして欲しいと言い、その日妻と子は妻の実家へと行きました。

 この時は子どもの前でのDV行為をしましたので、同時に児童虐待もしたという事になります。
ちなみにですが、私はものごとに影響されやすい人間なのですが、別居する数日前私は北野武のヤクザ映画を観ました。それがかなり私の暴力性を助長してしまったのだと思います。
なので、もちろん映画が悪いのではなく、私が映画の影響あるいは感化された事による暴力行為を選択してしまい、責任は全て私にあるのですが、なるべくなら暴力性のある映像、メディアには関わらないまたは観ないほうが良いと思います。それも自分を防衛するひとつの手段だと思います。

 いちばん最初のステップとの出会いは妻からの手紙によるものです。
別居してから数週間後妻から手紙がきました。そこにはもう一度やり直すためにステップへ行って欲しいと書いてありました。私はステップの事は何もしらないのでさっそくホームページを見るとそこには「NPO法人女性人権支援センターステップ」と書いてありました。それを読んで最初に思ったのは「えっ俺何?女性の人権侵害したの?」て思いました。そしてやたらDVという言葉が書いてあって極めつけはDVは犯罪ですとかいてあり、それを読んで思ったのは「完全に私が悪いもの扱いではないか、確かに私にも悪いところはあるが、妻は自分としては何も悪いとは思っていないのだな」と思いました。

 しかしそれから数週間たちある日私の弟との電話から言われた言葉がステップへ行く決定的な言葉となりました。
それは「安心して帰れる家がないのはつらい」という言葉でした。
その言葉を聞いたとき、確かに私は居心地の良い場所を提供していませんでした。それと、もし私に悪いところが少しでもあるのならば、それは更生しなければならないという思いと、あとは非常に身勝手ですがやっぱり同居したいという気持ちから去年の4月からDV加害者更生プログラムに参加する事になりました。

 ここからステップで学んだ事をお話ししたいと思います。
まずDVとは「力で相手を支配しようとする全ての行為・行動」となります。
私は妻に対して言葉や行動などで圧力を加えましたのでDVにあたります。
それで私にとってここが大切だと思うのですが、たとえ妻の言動に不適切な行動があったとしても、それに対して怒りが原動力となる支配的な行動は全てDVとなります。なので、俺が怒ったのはあいつが悪いから俺はこうしただという理屈は通用しません。まずこの部分を認めるのがDV更生の最初の関門だと思います。

 私の地元の知人の男性でその夫婦はかなり仲の良くない間柄なのですが、ある日の会話中、自分はDV行為をしているかもしれないが、それは妻が悪いからだと言ってまったく反省できない人がいます。それでは一生妻との関係は修復されないと思います。
 最初の頃のステップでの学びでは相手の悪い所に対して自分の正しさを主張してしまう、いわゆる自分が被害者だという意識がどうしてもあり、かなり悶々とした日々を送っていました。
 しかしながら次に学んだ事があります。それはこちらでたびたび出てくる「他人と過去は変えられない。変えられのは自分と未来」という言葉です。確かにその通りだと思いましたし、私は自分の思い通りに他人を変える事はできませんでした。
 今まで私は職場でも家庭でも他人を変える事に捕らわれていたように思い、そうじゃなくて自分を変えるところに重点を置こうと決心したのを覚えています。

 ステップで重要な学びの一つに選択理論があります。
 人間は基本的欲求に基づいて行動しています。それは「愛、力、楽しみ。自由、生存」の五つです。
私は力の分類のなかにある承認と自由の欲求が強く、だいたい怒る時の多くはそこにあてはまります。
特に私の場合、子どもの頃の心の傷により認められたいという欲求が強く、自分が家長でありそれを認められたいという気持ちが強かったのではないかと思います。
逆に私の場合は生存つまり衣食住の執着が低く、そこに対して怒りの感情がおきることはあまりないと思っています。

 ここでわかったのが自分の歪んだ欲求あるいは強い上質世界、願望に反する時、あるいは寄り添ってくれない時、怒り行動を自ら選択するというのがよくわかりました。
 自分の上質世界を変えれば行動が変わります。他人の上質世界を尊重しそこに寄り添えばしだいに他人の喜びは自分の喜びのように思えてきます。
 口で言うのは簡単ですが失敗をしながら実践をしていき、特に職場では正しい選択をすれば自分に対する評価が良くなり、悪い選択をすれば悪評というわかりやすい体験をしました。

 次に学んだ事はリフレーミングです。つまりマイナスに思っていた事をプラスに考えたり、短所を長所としてとらえる事です。
 私は妻に対して結婚前は、こちらの意見や要望を何でも聞いてくれるいい人だなと思っていました。本当に結婚して良かったと思いました。
ところが結婚してしばらくたつと妻に対して、優柔不断に思えたり、妻に相談事などをしても意見が出てくるのが遅く「頭の回転が遅い人だ」とか思うようになり最終的には怒りがこみあげてくるという、まさに逆リフレーミングをしてしまいました。

 リフレーミングは私は苦手なのですが、こちらもトレーニングをしました。
すごい簡単な例になりますが、睡眠不足の状態で朝起きるとたいていは「眠い、まだ寝ていたい」などと思います。だいたいその後ずっとだるい状態が続きます。皆さんも経験あると思います。
 しかしリフレーミングをして、たとえ寝不足でも「いやー良く寝た!」と思うと、なぜかその後いくらかですがさっきの思考より気持ち楽になります。これもまた、体験をもって学んだ事のひとつで思考の変化の大切さを学びました。
 妻の発言の遅さにイライラするよりは「一生懸命考えてくれているんだ」と考えると、ありがたい気持ちが生まれます。私に必要な思考はそれでした。

 その次に学んだ事にIメッセージがあります。
 私はすぐ人に対して自分の意見を押し付けてしまうところがあります。
例えば人が何かをやっているのを見ると、「こっちのやりかたにすべきだろ」とか「こっちの方がいいにきまってるじゃん」などと言ってしまい、相手の行動を全否定してしまったり、押し付けの言葉や、おせっかいな発言をしてしまいます。

 ここもかなり発言に気を遣うようになり、「私はこう思います」と語尾に「思います」の言葉を付け加えたり、怒らない事に越した事はないのですがそれでも怒ってしまった場合、「私はあなたの今の発言に怒りを覚えてしまいました」など攻撃的な言葉や感情表現を避けるようにしました。
 とにかくIメッセージで学んだ事は、怒りの言葉や表情には、相手は怒りしか受け取れないという事です。
 今まで私の発言によって妻に限らずどれだけの人を傷つけてきたのだろうかと思うと、ただ反省をして、そして二度と繰り返さないよう実践の毎日を送る事が必要だと思います。

 他にも52週を通して学んだ事は他にもたくさんありますが要約しますと
 まず傾聴する事の大切さを学びました、かつての妻との会話では傾聴しようという気持ちはあったのですが、だんだん妻の言葉が言い訳がましく聞こえてしまい、結果怒りになるということがよくありました。
 ですので傾聴だけではなく、その後に人間関係を築く良い習慣を含めた実践が必要だと思います。

 また自分のDV性がわかればわかるほど、世の中の人のDV行為やモラルハラスメント、パワーハラスメントに敏感になり、その影響からも自分を守らなければと思いました。
 52週を終えた方の体験談を聞いたり、DV被害者の方のお話を聞く機会もありました。
 自分を大切にする事も学びました。私自身も過去他人から虐待行為をされた事があるため心の傷があります。それを不健康な方法で回復しようとしてしまい結果暴力につながる事も学びました。
自分で自分を破壊せず、大切にする事によって加害者は更生できるという事を学び、ほっとした気持ちになった事を覚えています。 

 グループワークの振り返りの時間では、現在同居の方または別居、あるいは離婚した方、交際中の方などの失敗談や成功談、問題に対しての意見交換をしたり、嬉しかった事や悲しいことを分かち合い、なかには厳しい発言もあれば本当に相手を想った思いやりのある発言もありました。それはここででしか体験できない、大切な私の財産となりました。 

 次に今の状況ですが、冒頭にお話ししました通り別居状態が続いております。
 妻の心の傷は癒されておらず、現在も妻は実家に住んでおります。
 現在接近禁止命令や通信を禁止されてはいませんので、コミュニケーションを取ることはできます。
 妻の気持ちを考えると、本来ならばそっとしてあげる事と、妻からの必要なものを提供することが大事だと思っております。
しかしながら自分は弱い人間で、自分の会いたい気持ちから何度か妻へ子どもと一緒に会いたいとメッセージを送っておりましたが、現在は自粛し面会はしていない状況です。
今こうなってしまったのは当然の事だと思います。私はDV加害者であり犯罪者です。被害者が加害者と会いたいとは到底思えませんし、まして一緒に住むなんてもってのほかだと思います。

 今の私としては妻が本当に会ってもよいと思っていただいたその時まで私は待ち、成長し続けようと思い、同居に至っても妻の心の傷が回復するその時まで私は何年でも何十年でも待ち、同時に償い続けていこうと思っています。
 もしかしたら妻にとっての回復の早道は離婚する事かもしれません。それは私としては不本意です。しかしながら相手の上質世界に寄り添い相手の幸せを自分の幸せと思うのならば、円満同居に執着せず妻の気持ちを尊重し受け入れていかなければと思います。
 といいつつも、今だ別居中であるのは、妻が私の為に更生の時間を与えて頂いているのだとプラスに考えています。人間の人格や行動を変えるのは大変な行為で、時間がかかるものだと思います。それを待っていただいている妻へは感謝をしたいと思っております。 

 52週を終えたのは通過点にしか過ぎず、学んだ事を実践し失敗よりも成功の数を増やしていく努力をしていかなければなりません。これは一生続けていこうと思っています。また、今は妻に対してできる事はあまり多くありません。ですができる事はしていこうと思っています。
 とにかくこれからも、妻に喜ばれる選択を模索していくことが最良の選択だと思います。

 最後になりますが私をステップでの学びの目標である「他人を尊重する、受け入れる人間になる」を文字通り実践し、私を導いていただいた栗原理事長先生、そしてスタッフの皆様、DVからの脱却を試みている参加者の皆様、本当にありがとうございました。              (S・Y)
by npo-step | 2016-04-18 20:21 |   参加者・体験談、ほか